ダムの諸問題

貯水と地すべりの問題を提起したバイオントダム(イタリア)
チャスタイズ作戦で破壊されたメーネ・ダム(ドイツ)

現在は地球温暖化問題が深刻化し、世界各地で激しい洪水や深刻なかんばつが問題になっており、既存のダム運用に対する見直しも要求されている。一般に二酸化炭素を排出しないとして水力発電は注目されてはいるが、ダムの規模や設置している地域の気候などによっては貯水池より大量にメタンガスが発生するなど悪影響等も世界ダム委員会(WCD)の最終報告書等をはじめとして多方面より指摘されており、慎重な対応が求められている。

流域土砂管理を考えた場合、環境問題としては堆砂の問題と、河川の最大流量をコントロールすることで下流へ砂がフラッシュされないという問題もある。また、ダム設置による河川の流量や水温への影響によって、河川生態系を攪乱するという指摘もある。三門峡ダムでは黄土高原から流出する黄砂が貯水池に堆積、完成から二年で貯水池が埋没してダム機能が麻痺する事態が発生。さらにアスワン・ハイ・ダムでは下流への土砂流下減少によってナイル・デルタ縮小という問題が発生している。またメコン川上流に現在建設されている小湾ダムでは、国際河川であるメコン川の環境保全を巡ってダムを建設する中国と下流諸国の意見が食い違うなど、国際問題への発展を内在するダムもある。堆砂については従来の浚渫(しゅんせつ)主体から排砂バイパストンネルによる抜本的対策が試行されているほか、流砂連続性を確保するための人工洪水試験がグレンキャニオンダム(アメリカ)やスイスの発電用ダム、日本の国土交通省直轄ダムの一部などで実施されている。ただし現在は試行段階であるため、海岸侵食などを有効に防止するまでには至っていない。

ダム技術を切り拓いたヨーロッパ各国では、ダムのみではない多様な施策により治水安全度が格段に向上しドナウ川やテムズ川をはじめ多くの大河川で一万年に一度の大洪水に耐えうる(日本では最大で百年から百五十年に一度)だけの治水整備(住宅撤去などによる氾濫(はんらん)原の復元など)が行われ、ダム建設は事実上終焉している。アメリカでは1990年代に内務省開拓局長官であったダニエル・ビアードが「アメリカではダム建設の時代は終わった」と発言し、物議を醸した。日本ではこうした欧米の動きや、談合などの公共事業に関連する不透明な税金使用を背景にダム反対派が勢いを強め、「脱ダム宣言」をはじめダム事業に否定的な動きが活発化している。

また多数の死傷者を伴うダム決壊事故も国内含め世界中で発生しており、その度にダムに対する安全性が問われ技術、運用面の改善が求められている。フランスのマルパッセダム決壊事故(1959年)ではダム本体の安全性のみならずダム両岸の基礎岩盤の安定性が重要視され、アメリカのティートンダム決壊事故(1976年)では岩盤の安定性だけではなく水分の透過性も重要視され、以降ダムの基礎工事が建設においては特に注意を払われた。さらに貯水の際における諸問題として地盤の変化に伴う地すべりや誘発地震の問題も指摘され、1963年のバイオントダム地すべり事故(イタリア)では2,000人の死者を出す惨事を招いた。因みに、史上最悪のダム決壊事故はアメリカ・ペンシルベニア州に建設されたサウスフォークダムで、1889年5月31日に決壊しジョンズタウンを壊滅させ2,200人以上の死者を出した。ギネスブックにも掲載されている。

また第二次世界大戦におけるイギリス空軍によるチャスタイズ作戦や第四次中東戦争におけるアスワン・ハイ・ダムへのイスラエル空軍によるペイント弾空爆など、戦争やテロリズムによっては、ダムは攻撃の対象となる。朝鮮戦争において鴨緑江に戦前日本が建設した水豊ダム(スープンダム・北朝鮮)はアメリカ空軍による集中爆撃を受けたが、重力式コンクリートダムの特徴が幸いしダムは決壊せずに持ちこたえている。だがリスク管理やテロ対策の面からも十分な対策が求められている。幾つかの国家ではダムは軍事施設にならぶ重要な防衛拠点として、写真撮影を含み立ち入りが禁じられていることもある。

さらにダムによって文化財が水没するという問題も発生、アスワン・ハイ・ダムではアブ・シンベル神殿が水没することとなり、ユネスコなどの援助・指導によって移転されている。また三峡ダムでは三国志で有名な劉備終焉の地・白帝城が半分以上水没するなどの問題が起こった。そして、水没住民に対する補償や対策の法整備がされていない途上国も多数あり、日本のODAや世界銀行などの、国際資本の進退が注目されている。

『21世紀は水戦争の時代』と呼ばれる中、水資源開発とその保全は油田開発に匹敵する重要課題であると指摘する専門家も多い。実際問題として国連は水質汚染と共に水不足を水の危機として警告を発しており、複数の国家間で紛争が発生している。日本を含め、ダムを始めとする河川開発と環境保護の整合性をいかに取るかが大きな問題であり、ダム事業は新たなる岐路に立っている。